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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1337号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕<前略>

第二、控訴人の副位的請求についての判断

一、本件従前地上の控訴人所有の各建物が戦災によつて罹災する前のみぎ従前地の賃貸借関係について

<証拠>を総合すると、控訴人の父で先先代に当る亡大島勇市は、従前(遅くとも大正年間)から、本件五番の一の宅地の東北部分に当る本件従前地とほぼ同範囲の部分を、当時みぎ宅地の所有者であつた訴外小寺謙吉から建物所有の目的をもつて賃借し、みぎ借地上に建物を所有していたところ、昭和四年九月二一日神戸区裁判所において成立した調停の結果、みぎ五番の一の宅地所有権は一旦訴外小寺から訴外甲子不動産に債権担保を目的として譲渡された(同年一〇月二三日みぎ宅地について訴外甲子不動産を権利者として、その旨の所有権移転請求権保全の仮登記手続があつた)後、同調停条項の履行として、遅くとも昭和一〇年頃までにはみぎ宅地の完全な所有権が訴外小寺から訴外甲子不動産に譲渡され(但し所有権移転本登記手続は昭和一六年七月二六日)、その結果として、訴外甲子不動産は亡大島勇市との間の本件従前地の賃貸人としての地位を訴外小寺から承継取得したこと、その後昭和一一年中頃になつて、亡大島勇市は本件従前地上に存在していた同人所有の在来の各建物を取り毀ち、その跡に同人の所有に属する建物を新築することになり、みぎ建物の新築について地主甲子不動産の承認を受ける必要があつたので、亡大島勇市は、みぎ建築の承認を受ける手段として、さしあたり第一期工事で建築する予定になつていた家屋番号九番(当時は一八番屋敷)の建物敷地八〇坪五合三勺(二六六、二一平方メートル)について、昭和一一年八月上旬頃、甲子不動産との間に、新たに、非堅固建物の所有を目的として、借地契約の始期を昭和八年三月一日に遡らせ、借地権の存続期間を昭和二八年二月末日までの二〇ケ年間とした賃貸借契約を締結し、昭和一一年八月一一日みぎ契約当事者間にその旨の土地賃貸借契約の公正証書を作成し、同賃借地上に家屋番号九番の木造瓦葺三階建事務所兼倉庫一棟、建坪二六坪九合(八八、九三平方メートル)、二階坪二六坪七合(八八、二六平方メートル)、三階坪二四坪二合(八〇平方メートル)を建築所有し(大島勇市名義の所有権保存登記手続は昭和一二年七月二日になされた)、その後、本件従前地の残余の約八六坪九合(二八七、二七平方メートル)について、訴外甲子不動産から、賃貸借の始期および存続期間を前記公正証書による賃貸借契約において定めたところと同様のものとするとの了解の下に、みぎ残余の地上に非堅固建物を新築することにつき承諾を受けた上、第二期工事として、家屋番号一〇番(当時は一七番屋敷、一七番屋敷の一、二、)の木造瓦葺三階建事務所兼倉庫一棟、建坪八二坪三合(二七二、〇七平方メートル、二階坪八四坪二合(二七八、三五平方メートル)、三階坪七八坪(二五七、八五平方メートル)を建築所有するに至つた(大島勇市名義の所有権保全登記は昭和一二年一二月二四日になされた)こと、ならびに、昭和一三年四月二日当時戸主であつた大島勇市が死亡したので同人の息子で控訴人(大島勇市の四男)の兄に当る訴外亡大島秀夫が家督相続により本件従前地の借地権および同地上の各建物の所有権を承継取得し、昭和一九年八月二二日みぎ大島秀夫が戦死したので、控訴人が家督相続によりみぎ借地権および各建物の所有権を承継取得したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、本件従前地上の各建物の戦災による滅失および罹災後のみぎ従前地についての賃貸借関係

(一) 当事者間に争いがない事実

本件五番の一の宅地が昭和二一年一月一日連合国占領軍用地として政府により接収され、昭和二九年六月一五日に接収解除されたこと、被控訴会社が昭和二二年一一月二六日以降みぎ宅地について所有権を有すること、みぎ接収当時にはみぎ宅地上に建物が存在していなかつたこと、控訴人から被控訴会社に対し昭和二七年八月一日を初回として四回に亘り本件従前地が近く接収解除となつたときは、控訴人は戦災による同地上建物焼失前に引き続いてみぎ土地を賃借使用したい旨を申し入れ、昭和三一年七月三一日本件従前地について接収処理法三条一項に基づく優先賃借の申入れをしたが、被控訴会社はみぎ各申入れを承諾することを拒否したこと、ならびに、本件五番の一の宅地については昭和二九年一一月から一二月にかけて別紙第二目録(1)ないし(3)記載の土地が仮換地として指定され、控訴人がみぎ(1)記載の土地上に建物を所有して同土地を使用していることは、当事者間に争いがない。

(二) 争いのある事実関係についての判断

(1) 本件従前地上に戦前に存在していた控訴人の所有の各建物が昭和二〇年三月頃戦災によつて焼失したことは、<証拠>によつて認める。

(2) <証拠>によれば、連合国最高指令官の要求に基づき、業務停止、資産および負債の整理を命ぜられた閉鎖会社甲子不動産の特殊整理人日本銀行は、甲子不動産の資産及び負債の整理業務の執行として当時同会社の所有に属していた本件五番の一の宅地を公売処分に付し、被控訴会社はみぎ公売により昭和二二年一一月三日みぎ宅地を買い受け、同月二六日みぎ売買契約書に基づいて所有権取得登記手続を受けたことを認めることができる。

(三) 本件従前地の賃貸借関係についての法律上の判断

(1) 本件従前地の接収と賃貸借関係

本件五番の一の宅地が連合国占領軍用地として政府によつて接収された昭和二一年一月一日は、罹災処理法の施行日(昭和二一年九月一五日)より以前のことで、物件令施行中(昭和二〇年七月一二日公布、即日施行。昭和二〇年法律四四号をもつて戦時緊急措置法が廃止されると同時に失効した。)のことである。控訴人は、前認定のように、みぎ宅地の一部である本件従前地について建物所有を目的とする賃借権(以下借地権と云う)を有していて、昭和二〇年三月みぎ従前地上の控訴人所有の各建物は戦災により焼失したのであるから、物件令六条、三条により、みぎ従前地についての控訴人の借地権をもつて、前記建物の滅失した時以後にみぎ従前地に付き権利を取得した第三者に対抗できる関係にあつたわけである。

(2) 被控訴会社の本件従前地所有権の取得と賃貸借関係

連合国最高司令官の要求に基づき、本邦内における業務を停止し、資産および負債を整理すべきものとして大蔵大臣および主務大臣の指定する会社について、整理業務を担当するその会社の特殊整理人は、当該会社を当事者とする賃貸借で指定日において現に存するものについては、賃貸借に期間の定がある場合においても、民法第六一七条の規定により解約の申入れをすることができる(閉鎖機関令、昭和二二年三月一〇日勅令七四号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く勅令一三条)けれども、本件の場合、甲子不動産の特殊整理人日本銀行が本件従前地についての控訴人の賃借権について、みぎ賃貸借解約の申入れをしたことの主張立証がないから、控訴人のみぎ借地権は他に喪失の事由がなければ、前認定の公売処分時においても存続していたわけである。

(3) 既に判示したように、控訴人が所有していた本件従前地上の各建物は戦災によつて焼失したけれども、控訴人と訴外甲子不動産との間の賃貸借契約による本件従前地についての控訴人の借地権の存続期間は昭和八年三月一日から昭和二八年二月末日までであるところ、みぎ家屋焼失の時から被控訴会社が五番の一の宅地の所有権を取得しその登記をした昭和二二年一一月二六日までの間に控訴人がみぎ借地権を喪失したと認めるに足りる事跡がないから、その間、控訴人は引き続いてみぎ借地権を保有していたわけであつて、且つ、みぎ被控訴会社の所有権取得の日が昭和二一年七月一日から五ケ年以内であることは明白であるから、罹災処理法一〇条により、控訴人は被控訴会社に対し本件従前地の借地権をもつて対抗することができる。よつてみぎ従前地についての控訴人の借地権は被控訴会社が公売によつてみぎ従前地を含む五番の一の宅地を買い受けた後も、消滅することなく存続していたわけである。

被控訴会社は、控訴人は、本件従前地上の控訴人所有の各建物が焼失して以後は、みぎ従前地上の建物の所有その他の方法でみぎ従前地を占有したことがないばかりでなく、従前地の所有者に対して長年に亘つて賃料の支払いその他賃借人としての義務の履行を怠つていたから、被控訴会社が本件従前地の所有権を喪失していたし、仮に当時なお従前地の借地権を保有していたとしても、みぎ借地権をもつて被控訴会社に対抗することができない。また本件従前地についての控訴人の賃借権は前記公売により消滅したと主張するが、いずれも法令の解釈を誤つた独自の見解であるので(物件令三条二項、罹災処理法一〇条閉鎖機関令一三条参照)、被控訴会社のみぎ主張は採用できない。

(4) 法令に基づく控訴人の借地権の存続期間の延長

前述したように、本件従前地についての控訴人の借地権の約定存続期間は昭和八年三月一日から昭和二八年二月末日までとなつていたのであるが、昭和二〇年三月頃みぎ従前地上の控訴人所有の各建物が戦災により焼失したので、物件命令三条一項、同令附則三項により、昭和二〇年七月一二日をもつてみぎ借地権の存続期間の進行が停止され、罹災処理法施行日(昭和二一年九月一五日)当時におけるみぎ借地権の残存期間は七年六月一九日間となつていたわけであつて、同法一一条により、みぎ一〇年未満の借地権の残存期間は同法の施行日から一〇ケ年間に延長され、その終期は昭和三一年九月一四日となつたわけである。したがつて、接収不動産処理法の施行日に当る昭和三一年六月八日現在においては、控訴人は、五番の一の宅地の接収当時からみぎ施行日まで引き続いて、本件従前地について借地権を保有していたし、且つみぎ借地権の残存期間は(一年未満の)三月六日間となつていたのであるから、同法九条一項により、みぎ残存期間は同法施行の日から一ケ年間延長され、その終期は昭和三二年六月七日となつたわけである。

(5) 控訴人の借地権の存続期間満了による消滅

さきに述べた当事者間に争いがない事実から明らかなように、本件五番の一の宅地に対しては、昭和二九年六月一五日に接収解除があつた後、昭和二九年一一月から同年一二月にかけて別紙第二目録(1)ないし(3)記載の土地が仮換地として指定されたけれども、五番の一の宅地の一部である本件従前地についての控訴人の借地権については、地主である被控訴会社がみぎ借地権の仮換地指定申請書の提出に協力しなかつたために未だに土地区画整理事業施行者の指定がされていないのであるから、控訴人は接収解除以来今日まで本件従前地の仮換地上に建物を所有して同仮換地を占有使用することは不可能であつて、本件従前地の借地権につき借地法四条または同法六条所定の契約の更新を受けることはできない(別紙第二目録(1)記載の土地は、前述したように、本件従前地の仮換地には該当しないから、控訴人がみぎ土地上に建物を所有して土地の使用を継続していても、借地法四条にいわゆる借地上に建物がある場合にも、また同法六条にいわゆる土地の使用を継続している場合にも該当しない。)。したがつて、本件従前地についての控訴人の借地権は、前記存続期間満了の日に当る昭和三二年六月七日限り、契約が更新されることもなく消滅したわけである。

(6) 控訴人の借地権に対する接収不動産処理法三条一項の適用の有無について

控訴人は接収不動産処理法三条一項によつて被控訴会社に対し優先賃借申入れをしたから本件従前地についての賃借権を取得したと主張する。しかしながら、接収不動産処理法三条一項は土地の接収中にその土地の借地権が存続期間の満了によつて消滅した場合の規定であるので、本件の場合のように、借地権の存続期間が接収解除後しかも接収不動産処理法施行以後に満了した場合には適用がない。したがつて、控訴人が被控訴会社に対し本件従前地について同法条による優先賃借申入れをしても、新たに存続期間二〇ケ年間の賃借権を取得することはできない。

三、以上の理由により、被控訴会社に対し、本件従前地についての控訴人の賃借権の確認を求める控訴人の副位的請求はその余の争点について判断するまでもなく、理由がないことは明らかである。

(三上修 長瀬清澄 古崎慶長)

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